2022-08

本編《Feb》

第三章 十六夜3

「……え?」 問い返しながら、淳也の心臓が嫌な音を立てた。『お昼過ぎに、美月が謝恩会用の服を家に忘れたから取りに帰ってくるって言って』「ちょっと待って。今朝みいは謝恩会用の衣装が入ってるって、鞄と紙袋を持って出たんだけど」『えっ……でも、学...
本編《Feb》

第三章 十六夜2

美月と別れた淳也は、すぐに駐車場へと向かった。 淳也を酷く混乱させていたのは、ツーショット写真の撮影時に、俯く美月の髪を風が撫でていったとき、偶然露になったうなじに残っていた二つの赤い痕だった。 それを目にした時、今朝の功の様子が頭に浮かん...
本編《Feb》

第三章 十六夜1

美月が学園に向かうのを見送ってから慌てて踵を返し居間に戻った淳也は、功の姿を探した。居間に戻り、そこに居た母和美にその事を尋ねてみると、どこか戸惑った顔をこちらに向けた。「夕べ遅かったから、旦那様の書斎に向かわれたはずだけど。でも、モーニン...
本編《Feb》

第三章 満月8(孤月)

永の部屋から自分の部屋に戻ってくると、扉を閉め、中をゆっくりと見渡す。 二年前に模様替えされた部屋は、今もあの時のまま、美月にとってはキラキラと眩しく輝いて見えている。 今は綺麗に整理され、不要なものは箱に詰め、当面の生活に必要な衣類などは...
本編《Feb》

第三章 満月7(孤月)

美月がその部屋に入るのは、およそ二年ぶりの事だった。 由梨江が生きていて、まだ美月を美月だと思っていた頃は、一年に何度か一緒にここにその人を訪ねる機会があった。 由梨江の前ではその人をパパと呼んだが、自分もその人も、その事に慣れる事は無かっ...