2022-07

本編《雨月》

第十九章 雨と外郎4

改札で母の姿を見えなくなるまで見送ってから、珠恵は一人家路についた。 家を出た時には昼間の明るさが僅かに残っていたのに、帰り道はもう夜が近くなっている。遠くの空には、まだ微かに、淡いオレンジに染まる雲や色を薄めつつある昼の名残の水色が、暮れ...
本編《雨月》

第十九章 雨と外郎3

それから、まるで以前から顔なじみだったかのように、喜世子のお喋りに釣られて口数は少ないながらも閑談して過ごした母は、夕方、もう日も暮れ掛けた時間に家へと帰っていった。 喜世子と話す時の母は、珠恵達の母親でも父の妻でもない、今まで家の中では殆...
本編《雨月》

第十九章 雨と外郎2

「じゃあ、私は」「あ――」 席を立とうとした喜世子を見上げて、珠恵はつい縋るように見つめてしまう。「……大丈夫だから。珠ちゃん、お母さんと二人で話を」 励ますような目で珠恵を見下ろした喜世子が、同意を求めるつもりだったのだろう、母へと顔を向...
本編《雨月》

第十九章 雨と外郎1

秋も深まり、少しずつ色を変えていた木々も、もうその葉を散らし始めていた。このところ、朝晩は特に冬の気配が色濃くなってきたように感じられる。 その日、仕事が休みだった珠恵は、朝早くから起きて朝食を用意し、早くから仕事に出掛ける風太を見送った後...
本編《雨月》

第十八章 雨と背中5

強請るように顔を寄せると、頬を染めた珠恵の唇がそっと重ねられた。緩やかに食んでから与えるように唇を開くと、そこに躊躇いながらおずおずと舌が入り込んでくる。 誘うように絡め取ると、珠恵の温かな舌が、ぎこちなくもそれに応え動き始めた。しばらくは...