2022-06

本編《Feb》

第二章 十三夜2

藍を車に残してエレベータに乗ると、隣に立つ美月の緊張が伝わってくる。「顔、強張ってるぞ」 それを少しでも解そうと頬を突いて笑い掛けると、何とか淳也に笑い返してみせた美月は、けれどエレベータが最上階について扉が開いても、その場を動こうとしなか...
本編《雨月》

第七章 雨と混沌7

どうやってまともに運転をして家まで戻って来たのか、その辺りの記憶は曖昧だった。 風太の車が戻った気配を察した面々が、母家から外に出て来る。真っ先に駆け寄ってきた喜世子が、風太が運転席から降りるのを待ち構えていた。「風太、珠ちゃんは」「……家...
本編《雨月》

第七章 雨と混沌6

互いに口を噤んだままの車内は、エンジン音だけがやけに大きく聞こえる。珠恵は、両手を膝の上で重ねたまま、窓の外へと視線を向けているようだった。 幹線道路を交差点で折れてしばらく走るうちに、少しずつ辺りの景色が、ビル街から住宅地へと変わり始める...
本編《雨月》

第七章 雨と混沌5

珠恵が横になっている間に、店とは弘栄が話をつけていた。 女を連れ込んでいた学生に場所を提供し、中で行われていることには目を瞑る見返りに金を貰っていたのだという若いオーナーは、ここで商売を続けたいなら、今後二度とその手の行為に手を貸さないと約...
本編《雨月》

第七章 雨と混沌4

触るなと言われた男の怯えた表情に、自分が今どんな形相をしているのか、想像がつく。「……や、……な、なんも、してねえって」 慌てて肩から手を離した男を押しやると、しゃがみ込んで、目を閉じた珠恵の頬にそっと触れた。浅くだが呼吸を繰り返す珠恵の顔...