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番外編《雨月》

通り雨-①降雨

「――だから、この公式の場合は、ここの数字をこっちに……ふっ風太さん」「んー」「あ、あの、ちゃんと、聞いてますか」「ああ、これ、こっちに持ってくんだろ」「はい、でも、あの、風太さん」「で、ここに入れて」「手が」「……で、答えがこうだ。だろ?...
番外編《雨月》

遣らずの雨 ⅳ

喜世子達に心配を掛けたくなくて、母家には寄らず直接部屋に戻り洗面所で顔を洗う。思ったとおり、泣き腫らしたひどい顔をしていた。風邪かもしれないと嘘を吐いたが、泣きすぎたのか本当に熱っぽくて、頭が痛い。 こんな顔のまま明るい部屋で風太と対峙して...
番外編《雨月》

遣らずの雨 ⅲ

喉元をせり上がる熱い息が、漏れ出さないように口元を強く覆った。それでも、震える唇から嗚咽が漏れそうになる。ぎゅっと閉じた瞳から零れ落ちた滴が、スカートに落ちて広がっていく。 ミカの手が、上下する珠恵の背を優しく撫で下ろしていた。「あんた……...
番外編《雨月》

遣らずの雨 ⅱ

ターニャが顔を近付け話し掛けてくる知らない女の相談事を適当に聞き流しながら、風太は氷を混ぜるようにしてグラスを傾けた。 今日は現場で仕事上がりにビールが差し入れられたため、店に着く前にはもう、酔う程ではないが多少アルコールが入っていた。 ―...
番外編《雨月》

遣らずの雨 ⅰ

「ない?」 文字通り目を丸くしているターニャに、頷くのがどこか申し訳なくさえ思いながら、珠恵は小さく首を縦に振った。「あんたね、もうそういう嘘はいいから」「いえ、あ、あの嘘じゃ」「ないわけないじゃない」「でも、あの……ない、です」「一度もぉ...