本編《雨月》 第二章 雨とバタフライ3 驚いて顔を横に向けると、ついさっきまで携帯での通話を続けていた男の子が、立ち上がり誰かに掴みかかっている。 ――え? 高校生が話していたはずの携帯を何故か手にしている森川が、彼を見下ろし苦笑いを浮かべていた。「ざけんな、返せ」「あの漢字、読... 2022.06.07 本編《雨月》
本編《雨月》 第二章 雨とバタフライ2 その週末、返却期限が過ぎていたと、問題集を夕方になって返しに来た森川に対応したのは、カウンターに入っていた珠恵だった。 顔を合わせるのは、嘘をついてしまったあの日以来だった。自分の中にある気まずさのせいでぎこちなくなる珠恵とは違い、森川の態... 2022.06.07 本編《雨月》
本編《雨月》 第二章 雨とバタフライ1 「なーんか知らない間に、福原さんって、森川さんと仲良くなってません?」 休憩が久しぶりに一緒になった真那が、大きく開いた口にデニッシュを頬張りながら、突然そんなことを言い出した。 森川の名前を聞くだけで小さく跳ねる鼓動を誤魔化すように、珠恵... 2022.06.07 本編《雨月》
本編《雨月》 第一章 雨と図書館4 翌日から、珠恵は職場で身につけるエプロンのポケットに、ずっとあるメモを忍ばせていた。 初日は、それを手渡す状況を考えては緊張し、雨の日でもないのに、誰かが入口に現われるたびにそちらを意識してしまい、一向に落ち着かなかった。 ――あの人だから... 2022.06.06 本編《雨月》
本編《雨月》 第一章 雨と図書館3 年も明け、季節はもう一月も半ばに差し掛かっていた。 今年の冬は比較的温暖だと言われているが、秋めいた好天の翌日に激しい雷雨が、そして急激な寒波とともに積もるほどの雪が降るなど、気候の変動が激しい。 今日は、いつもより気温は少し高く、朝からず... 2022.06.06 本編《雨月》