rainmon

本編《雨月》

第十九章 雨と外郎8

夜半過ぎに目が覚めた風太が隣を見ると、いつの間にか風呂から戻っていた珠恵はもうそこで眠っていて、途中で止まっていた洗濯物も、畳まれて部屋の隅に置かれていた。 微睡んでいただけのつもりが、しばらくしっかり寝てしまっていたようだ。一度目が冴えて...
本編《雨月》

第十九章 雨と外郎7

椅子に座りじっとしていなければならない時間を苦痛に感じながら、全く集中出来ない授業を終えた風太が家に帰ると、たいていは出迎える珠恵の代わりに、今日は喜世子が居間から顔を覗かせた。 そのことが、また少し気持ちをざわつかせる。「お帰り、早かった...
本編《雨月》

第十九章 雨と外郎6

「随分遅かったね。あれ? 風太あんた、珠ちゃんと一緒じゃなかったの」 居間に戻ると、おかずを盛った皿を手に台所から出てきた喜世子が、風太の後ろに視線を向ける。「用事思い出したみたいで部屋に戻ってます。支度、手伝えなくてすいませんって」 答え...
本編《雨月》

第十九章 雨と外郎5

車は、ほんの五分程度で家へと到着し、風太は先に帰りついていたバンの横に軽トラックを停めた。親方や竜彦の乗ったバンも、軽トラより先に珠恵にクラクションを鳴らし通り過ぎたらしいが、全く気が付かなかった。 エンジンが止まると、不意に車内に静寂が訪...
本編《雨月》

第十九章 雨と外郎4

改札で母の姿を見えなくなるまで見送ってから、珠恵は一人家路についた。 家を出た時には昼間の明るさが僅かに残っていたのに、帰り道はもう夜が近くなっている。遠くの空には、まだ微かに、淡いオレンジに染まる雲や色を薄めつつある昼の名残の水色が、暮れ...