本編《雨月》 第三章 雨といちご3 自宅に帰り着いて、鞄から鍵を取り出したタイミングで、玄関に明かりが灯り鍵が開錠された。ドアノブを握りゆっくりと引くと、恐らくは靴音を聞きつけて出て来たのだろう母親が、玄関先で珠恵を出迎える。「ただいま、帰りました」「お帰りなさい。随分、遅か... 2022.06.12 本編《雨月》
本編《雨月》 第三章 雨といちご2 ――そいつ、一人で帰したらそのまま飲みにでも行きかねないからな。あんた、家の前まで責任持って送り届けてくれ。なに、すぐ裏手だ。 結局、吉永医院を後にしたのはもう十時近い時間だった。病院を出る前に吉永が口にしたその言葉に従い、森川の後をついて... 2022.06.12 本編《雨月》
本編《雨月》 第三章 雨といちご1 珠恵を先に乗せたタクシーの後部座席に素早く乗り込んだ森川は、腕を隠すように鞄を身体の前に回すと、近くて悪い、と言いながら、ふた駅ほど隣にある神社の名前を運転手に告げた。 返事もなく車が走り始めた直後、不意に森川の身体がこちらに傾き耳元に顔を... 2022.06.12 本編《雨月》
本編《雨月》 第二章 雨とバタフライ5 傷口から流れ出た赤い血の色とも、人の肌の色とも違う、鮮やかな色彩――。 足を止めてしまった珠恵の視線に気が付いた森川が、微かに苦笑するのがわかった。「びっくりしたか。そりゃまあ、そうだろうな」「あ……あの」「悪いけど、少し手を貸してくれ。タ... 2022.06.07 本編《雨月》
本編《雨月》 第二章 雨とバタフライ4 出先から戻って来た館長への報告を済ませ、図書館を出る頃にはもう、八時を少し回る時刻になっていた。 今後も起こりうる同様の事態に備え、再発防止対策とマニュアルの徹底を図るために、早々に会議が開かれることとなった。珠恵にも、今回のことを踏まえ、... 2022.06.07 本編《雨月》