rainmon

本編《雨月》

第七章 雨と混沌1

玄関の扉を閉めて靴を脱ぎながら、自分の中にさっきまでの余韻が残っていて、心はまだ桜の元を彷徨っているようだった。「珠恵?」 出迎えた母が珠恵の荷物を手に取ってから初めて、我に返り顔を上げた。「あ……ただいま」「お帰り、なさい」 何か言いたげ...
本編《雨月》

第六章 雨とさくら4

風に煽られて、花吹雪が舞う。いつの間にか満月は薄雲の向こうに隠れ、淡くぼんやりとした光を放っていた。「今日は――」 吸い込まれそうな桜の花から目を逸らし、風太はしばらくの間目を閉じて、息と共に言葉を吐き出した。「安見さんの命日だ」 隣に腰を...
本編《雨月》

第六章 雨とさくら3

「親がいるなら居場所は教えておけ。そう言われたのは一度だけで、そのままズルズルとあの人のマンションに居付くようになった俺に、安見さんはそれ以上はほとんど何も言わなかった。まあ、後んなってわかったけど、どうもお袋には俺の居場所、連絡してたらし...
本編《雨月》

第六章 雨とさくら2

「学校も先生も、結局のところ俺ら親子にはあまり関わりたがらなかった。小学生のうちから何度も警察の世話んなって、中学に上がる頃にはもうすっかり札付きだ。その頃にはもう殆ど家に帰らなかったけど、だからといって警察に届けるような親でもなかったしな...
本編《雨月》

第六章 雨とさくら1

花見の当日、午前中は少し曇り気味だった空は、昼を過た頃から春の日差しが照りつける穏やかな天気へと変わっていた。 一週間前からずっと曇と傘マークのその日の天気予報を毎日チェックしては、外れて欲しいと願っていた自分の気持ちが通じたかのようで、珠...