本編《雨月》 第十二章 雨隠3 駅裏にある比較的広いその喫茶店は、いつもながらにそこそこ賑わっていた。扉を開けて中を覗いた風太は、一番奥の席で入口に背を向け腰掛けている背筋の伸びたスーツ姿の人物に当たりをつけて、そちらへと足を向けた。 足音に顔を振り向けた男がこちらを一瞥... 2022.07.18 本編《雨月》
本編《雨月》 第十二章 雨隠2 朝から何度も電話を確かめているが、もう夜になるこの時間になっても、珠恵からは何の連絡も入っていない。風太から掛けてみた電話は、初めの数回はコール音から留守番電話へ、そして夕方頃からは、電源が切れてしまっているとのアナウンスに切り変わっていた... 2022.07.18 本編《雨月》
本編《雨月》 第十二章 雨隠1 静かに門を押して玄関の扉の前に立ち、鍵を差し込む前に珠恵は目を閉じた。さっきまで森川と重ねていた唇に、そっと触れてみると、自分の身体が自分のものでないような不思議な感覚にとらわれる。 二人で過ごした短くとも濃密な時間の中で、何度も何度も重ね... 2022.07.18 本編《雨月》
本編《雨月》 第十一章 雨と渇求4 母家の台所では、もう既に起きていた喜世子が一人、朝食の支度を始めていた。「おかみさん、おはようございます」「あんた……」 目を瞠った喜世子が、慌てて火を止め風太の方へと近付いて来る。「昨夜は、すいませんでした。結局顔出さないままで」「そんな... 2022.07.15 本編《雨月》
本編《雨月》 第十一章 雨と渇求3 明け方、空が白み始めた頃、森川と二人でホテルを後にした。あれだけ降っていた雨はもう上がっていて、けれど濡れたアスファルトとまだそこここに残る水たまりや時折落ちてくる水滴の様子で、ついさっきまで降っていたのだろうことがわかる。 珠恵に合わせる... 2022.07.15 本編《雨月》