Februus2

本編《Feb》

第二章 無月5

目の前にある瞳に膜がかかったように見えたその瞬間―― 美月の頭に衝撃が走った。 頬を叩かれ、頭をシートにぶつけたのだとようやく理解した時にはもう、足を引きずられ、仰向けにシートに倒されていた。 凍るように冷たい目が、真上から美月を見下ろして...
本編《Feb》

第二章 無月4

戻ってきた正巳と運転手が車に乗り込んできたが、美月は窓の外に目を向けたまま、身動きひとつしなかった。 呆れたようなため息に続けて正巳が「出して」と声を掛けると、車がゆっくりと走り出す。「あったかい飲み物、置いとくから」 そう言って正巳はカッ...
本編《Feb》

第二章 無月3

女が帰った後の園長室は、暫く重苦しい空気に包まれていた。 母親が見つかったかも知れないという喜びはなく、厄介な事になったという嫌悪感だけが残る。絵美はもやもやとした気持ちや怒りを拭いきれないまま、二人に向けて口を開いた。「あの人何度も警察に...
本編《Feb》

第二章 無月2

「ちょっと正巳。やめなさい」 さっきまでより少し硬さが取れた表情の絵美が、呆れたようにソファに腰掛ける正巳に注意する。「返して」 玄関先から踵を返した美月は、真っ直ぐにソファーに向かい正巳に向けて手を差し出した。携帯と財布を脇に置いた正巳は...
本編《Feb》

第二章 無月1

高速に入った車は、どうやら他県へと向かっているようだった。 正巳が、懐かしいところに寄るとそう言った場所。それは恐らく、二人が幼い頃に過ごしていた施設――広葉野学園だろう。 確信的に思いながらも学園が近くなるまで実感が湧かなかった美月は、や...