二条 永 様
お元気ですか。
出て行った身で、突然このような手紙を送り付けるご無礼をお許し下さい。
そちらを発つ時に、一度は持って来たカードを同封しています。
美月さんとしての私が、由梨江ママと一緒に、毎年記念日にお渡ししていたカードを、渡す機会が無くなってからも書き続けていたものです。
パパのことを、本当は何とお呼びすればいいのか、十年以上同じ家に住みながら、数少ない接点がある時の殆どを「パパ」と呼んでいたので、それ以外の呼び方がわからないまま、そこを出てきてしまいました。
この手紙は、美月さんの名前を貰って、美月さんとして過ごした私からの最後の手紙です。
だからこの手紙の中では、「パパ」と呼ぶことを許して下さい。
持って出たカードを、最初は処分してしまうつもりでした。けれど、パパに渡すために書いたカードを、自分の手で処分する事が、どうしても出来ませんでした。
せめてパパの手元には届けたいという私の我がままで、押し付けているものです。だから、この手紙もカードも、そのまま捨てて貰って構いません。
本当はずっと、パパにとって私は、美月さんの変わりでない他人だった事もわかっています。
それでも、私に束の間でも家族を与えてくれたこと、心から感謝しています。
身代わりでも偽りであっても、ママとパパを呼ぶ時、私は本当にお二人の娘になった気分でいられました。今でもその時のことを思い出すと、幸せな気持ちが込み上げてきます。
あの家に存在する私は、パパの淋しさを埋めることはできませんでした。それどころか、色々な面倒をかけて、煩わせてしまったことが、心苦しくてなりませんでした。
あの家の誰もが、私には心に淋しさを抱いているように感じられました。ママも功さんも、そしてパパも。
わかったような事を言って、不愉快な思いをさせてしまったら申し訳ありません。
ただ、短くはない時間をそこで過ごしていた私には、二条という名前の重さもその大きさも、そして普通の家族のようにはいかないことも、ほんの少しではありますが、わかっているつもりです。
それでも、そこには、私が想い焦がれる家族があります。
由梨江ママはもういなくなってしまったけど、パパと功さん。そして新しく家族になる功さんの奥様や、未来に家族になる子ども達が、少しでもそれを埋めてくれることを、心から願っています。
この先、私の実の父親が見つかることがない限り、私の生涯で「パパ」と呼ぶ人は、きっとパパだけだと思います。
私には本当はないはずだった、パパと呼べる機会を与えてくださって、ありがとうございました。
お身体、どうか大切にして下さい。
遠くから、パパの幸せをずっと祈っています。
最後まで、本当にお世話になりました。
どうかお元気で。
さようなら。
二条美月
《Februusの月 完》