その手の熱さに、身体が震えてしまう。唇を噛んで抑えた声は、指が胸の頂に触れた瞬間堪えきれずに零れ出た。
「ぁん……っ」
強く腰に回された手でもっとそばへと引き寄せられて、激しく鼓動を刻む胸の辺りに生暖かく濡れた感触を感じた。功の唇と舌が、羽のようにそっとそこを嬲る度に、芙美夏の身体に甘い痺れが生まれる。
舌で胸の先を舐め上げられると、唇が解けて掠れた声が息と共に吐き出された。足が震えてその場に崩れてしまいたくなるのを、功の腕と脚が許さないというように支えている。
「……こうさん……んっ……立ってられな……」
縋るように功を見下ろした芙美夏の上げる声が、自分のものではないみたいに甘く響く。首の後ろに回された手に引き寄せられて、下から舌をねじ込むように唇が重ねられた。いつでも崩れてしまえる身体を、肩に掴まらせ立たせたまま、崩れる事を許さないと功の目が芙美夏に伝えてくる。
唇が離れると、濡れたそこを功は見せつけるように舐め取った。
「芙美夏、俺にキスして」
芙美夏の唇を指で拭いながら、追い詰めるように見つめてくる功の唇に屈みこんでキスをする。何度も唇を合わせてそれを繰り返すうち、腰を掴んでいる功の指に力が込められてゆく。
「もっと、深く」
慣れない芙美夏はどうすればいいのか分からず、功の目を見つめる。けれどそこに浮かぶのは、どこか酷薄な笑みだけだ。
「……自分で、誘い出して」
挑発するような、楽しむような功の言葉に急かされるように、その誘いに抗うことなく屈してしまう。僅かに残っているはずの理性も、この部屋に滲む空気に少しずつ溶けて消えてしまいそうだった。
芙美夏の稚拙な誘いに、功は薄く笑みを浮かべるだけで容易く乗ってはくれない。功がすることを思い出しながら、両手で頬を挟み何度も角度を変えて、触れるだけでなく唇を食み吸い上げ、舌でなぞる。だが閉ざされた唇をなぞってみても、その表情は変わることなく芙美夏を観察するように見つめるだけだ。
「功さん……お願い」
ついに声を出して請う。
「もう終わり?」
そう言って笑いながら、功は腰に回していた手を離して、また胸の頂を弄びだした。意識がそちらに持って行かれて、キスが御座なりになってしまう。
「こう……さ、んっ」
「まだ、出来てないだろ」
そう出来ないようにさせているくせに、楽しそうにそう口にした功は、さっきからずっと芙美夏の知らなかった意地悪な顔を見せていた。やがて笑みを浮かべたまま許すように開かれた唇に、頭で考えるよりも先に指を伸ばして触れる。待ち構えていたかのように、それを温かく濡れた舌が捕えたまま唇が閉じられた。
「やっ……だ」
功の舌が何度も指を舐め、包み、時折軽く噛んで見せる。功の身体から伝わる熱を映しとっていくように、芙美夏の身体も熱くなる。息が上がり頭が溶けそうだった。身体の内側が、功に触れて欲しいと溢れてくるのを感じていた。
汗ばんだ背を、功の指が辿りながらゆっくりと滑り降りていく。腰の横を撫でられた瞬間、啼くような細い声が芙美夏の唇から零れた。
「こう、さん…………」
もう訳もわからないままに、焦らすような責めを与えてくる功の名を許しを乞うように呼ぶ。そんな芙美夏の声を遮り呑み込むように、先ほどまで指を食んでいた唇が、もう一度重ねられた。
逃げ回っていた舌が、今度は芙美夏に与えられる。捉えて戻っていくそれを追いかけて、功の口内に舌を這わせた。夢中で舌を絡ませる芙美夏に、突然新たな快感が与えられる。腰から身体のラインを辿り降りてきた指が、もう濡れ始めている場所を、確かめるように撫でた。その感覚に、とうとう膝が折れてしまう。
崩れそうになったその瞬間、強く身体を引き寄せられて、功の手でベッドの上に縫い止められた。芙美夏を見下ろした功は、小さく笑いながら、再びゆっくりと腰から腹部を撫でて足の付け根へと手を滑り込ませてゆく。
「……っや」
わざと音を聞かせて、芙美夏の欲望の証を知らしめようとする功の仕草に、恥ずかしさのあまり目を閉じて顔を逸らす。どこも触れられるだけで、息が、声が漏れてしまう。堪えようと口に当てた腕はすぐに功に捉えられ、上腕の柔らかな皮膚が、意地悪な唇に繰り返し吸い上げられた。
柔らかな羽で触れるかのように、そっと芙美夏の腕を撫でていった功の唇が、やがて、腕のある場所に優しく触れる。何度も繰り返しその場所を舌でなぞる動きに、目を閉じたまま芙美夏は、ふとその場所が、芙美夏が美月であるために自分自身で傷跡をつけた場所だと気が付いた。
「芙美夏……」
甘く柔らかな声が耳に届く。
「目を開けて」
抗うように首を横に振ってしまう。
「俺を、見て」
強引でない乞うような声色に震える瞼を何とか押し上げると、射るような視線を注ぐ功の瞳に捉えられる。その瞬間、功の指が再び芙美夏の足の間に入り込んできた。
「……ん……やっ、功さん……」
「だめだ、ほら……。目を閉じないで」
羞恥で頭がどうにかなりそうな自分と、欲望に捕らわれた功の顔をずっと見ていたい自分がせめぎ合う。功の瞳は芙美夏から逸らされる事はなく、指は熱を煽る仕草を繰り返していて、否応なく身体が反応するのを抑えることが出来ない。
襞をなぞり、蜜が滴る場所に少しずつ存在を知らしめるように指が埋められる。その指が何度も音を立てて身体の中を探り、芙美夏の欲望を煽り立てていく。そこを抜け出た濡れた指が、熱を持った芯に触れる。指が増やされ広げられる。
熱くて、おかしくなりそうだった。
「やっ……あっ、いや」
まだバスローブを羽織ったままの功は、芙美夏の痴態をじっと見下ろしていた。指で唇で、そして、深い欲情を滲ませた視線で、芙美夏を翻弄する功に、どこまでも追い詰められていく。
「……気持ちいい、だろ?」
「やっ」
「いや、じゃない……言って」
堪えきれずに甘い声を漏らしながら、ただ、首を横に振る。
「芙美夏……言って」
抵抗はあっけなく取り払われ、吐息の合間に切れ切れに乞われた言葉を口にしていた。
「……こう……っ、も、や……私、だけ……」
「芙美夏だけじゃ、ないよ」
その言葉を証明するように、導かれて初めて触れた功の欲望の証に、一瞬驚きに手を引いてしまった。けれど自分だけがこの熱に抗えないのでなく、功も自分を求めていると思うと、それに応えたくてバスローブで隠れたその場所に、芙美夏はもう一度自分から手を滑り込ませた。
小さく声を漏らすと、そのまま邪魔だというようにバスローブを脱ぎ落とした功が、芙美夏の手を握ってそこに添わせる。
「っ……ゆっくり、触れて」
功に教えられたように手を動かす。見上げる功の口から熱い息が漏れて、感じていることを教えてくれる。
「ああ……」
漏れる功の声を聞いているうちに、もっとそれが聞きたくて、探るように指を動かす。功の両手が頬を強く掴むと覆いかぶさるように、キスが始まる。呑み込まれるような深いキスを重ねると、さっきより余裕のなくなったように見える功の掠れた声が聞こえた。
「もういい……もたなくなる」
そんな功を見たいと、続けようとした腕を捕られて、再び形勢は逆転し功の愛撫が始まった。
「今度は、君の番だ」
そう言いながら、功は首筋から芙美夏の肌を唇で吸い上げ、いくつもの痕を残していく。
「声我慢しないで。全部聞かせて」
身体が反り上がるのを、功の腕が押さえ込む。敏感に反応する場所は何度も撫でられて、後はもう声を抑えることが出来なくなった。
功の舌が身体を下りきって、膝に手が添えられる。その先に気づき力を入れて抵抗しようとするが、膝の内側から内腿に当てられる唇に、徐々に身体の力が抜けて解け落ちてしまう。
膝を開かれて、そこに功の指が添えられ視線が送られる。恥ずかしさに耐え切れず首を何度も横に振った。
「や……だ、お願い見ないで……功さん……」
それでも功は両足の間から、頭を上げてはくれなかった。恥ずかしくてたまらないはずなのに、そこが熱く潤むのを感じて、余計に恥ずかしくなる。
嫌だと抵抗する声はただただ男を煽る甘いものでしかなくて、強く目を閉じた芙美夏の頬を、気付かぬうちに零れ落ちた涙が濡らしていた。