目覚めた時には、もう部屋の中がすっかり明るくなっていた。うつ伏せになった身体をゆっくりと起こしながら、功は、心地よさと不快さの入り混じった気だるさを感じていた。
「……芙美夏?」
部屋を見渡すと、芙美夏の姿はもうそこになかった。
昨夜の事は夢だったのかと、自分の身体を確かめるように見ると、答えを教えるように、肩の傷の痛みを感じる。
初めてだった芙美夏の残した痕跡は、二度目に抱いた後で、バスルームで洗った。自分が怪我をしたことにするからいい、と功は告げたが、赤くなりながら必死でそれを拒絶して、功からもシーツを隠そうとする芙美夏が可愛い過ぎて、しばらくは離してやれなかった。
今日は相当、身体が辛いだろう。加減が全く効かなかったことを思い出し、自分に呆れて溜息が零れる。
時計を見やると、午前七時を回ったところだった。
この屋敷の中では、流石に朝まで一緒にはいられない。少し冷静さを取り戻した功は、自分が余りにも迂闊だった事に、今頃になって気が付いた。夕べは、そんなことを考える余裕など欠片もなかった。
芙美夏は、一人で起き出して、部屋に戻っていったのだ。功が、気付くこともない夜の間に。
ベッドを降りて、素早くシャワーを浴びる。
身体に残る芙美夏の感触を本当は残しておきたかったが、そんな事も言っていられなかった。
寝室を出た功は、クローゼットの前に掛けられたモーニングを見て、もう一度舌打ちをした。
本当に迂闊だった――。
これを見た芙美夏がどう思っただろうかと、自分を罵倒したい気分に駆られながら、功はモーニングをソファに放り投げ、クローゼットから深めの色のスーツを取り出した。
もう、芙美夏を手放すつもりなど無かった。この婚約の話はなんとしても取りやめると決意していた。
着替えを済ませて階下に下りると、淳也と、そして制服を着た芙美夏が、並んで玄関へと向かうところに出くわした。
芙美夏は、少し疲れた顔をしていたが、その瞳でまっすぐに功を見つめ、微かな笑みを浮かべた。
「おはようございます」
逆光で眩しいその顔を眺めながら、功も笑みを浮かべて応える。
「おはよう」
その様子に、芙美夏の横に立つ淳也が訝しそうな顔を向けた。
「もう出かけるのか」
「はい。行ってきます」
芙美夏が、軽く頭を下げ功の横を通り過ぎる時に、絡めるように夕べ何度も繋いだその指先に触れる。
「芙美夏」
今度こそ、驚いた顔をした淳也が立ち止まった。
「……功さん?」
周囲に誰もいないとはいえ、彼女を芙美夏と呼んだ事に、淳也が戸惑いを隠せずに功を見ている。その視線を無視したまま、功は芙美夏を見遣った。芙美夏も、戸惑ったような視線を返してくる。
「卒業、おめでとう」
見開いた目をゆっくり伏せて、顔を上げた芙美夏は、美しい笑みを浮かべた。
「ありがとう」
そう言って、功に背を向けて。二人は、玄関から出ていった。
そしてそれが。
十代の彼女を見た最後だった。