本編《Feb》

第三章 満月3



 薄暗い部屋の中で、白い身体が波打つように揺れる。
「んっ……や……」
 声を抑える芙美夏を、もっと乱れさせたくなる。肌の稜線を辿るように舌を這わせ、硬くなった胸の先を口に含んで、舌で舐め緩く吸い上げると、腕の中で身体がしなった。
 白く柔らかな膨らみ、そして甘くさえ感じられるきめ細かな肌を吸い上げて。組み伏せた身体に赤い刻印をいくつも残しながら、功の指はもう蜜に濡れた芙美夏の中へと埋められていた。
 温かい中をゆっくりと解すように指を出入りさせる。
「……っ……んっ」
「芙美夏……声、抑えないで」
 声をかみ殺すように唇を閉じようとする芙美夏の耳朶を、甘く噛みながらそう囁くと、功の声に反応するように、今結ぼうとしていた芙美夏の唇から小さな声が漏れ落ちた。
「こぅ……さっ」
「俺の名前、もっと呼んで」
 言いながら芙美夏の熱く潤んだ場所に入れた指をゆっくり動かし、その反応を確かめた。
 初めは拒んでいたそこが、功の指と馴染んでいくように、柔らかく潤みを増し少しずつ解れていく。それを知らしめるように、わざと芙美夏に聞こえるように水音を立てて、指を曲げて探るように中を擦り上げると、薄く開いた唇から、また微かな声が上がった。
「ここが……気持ちいい?」
「や……わからな……っ」
 顔を赤く染めて首を振る彼女の、反応がよくなる場所を探し当て、何度もなぞる。
「あっ……や……だ、こう……さ」
 縋りつくように肩に回された腕を掴むと、手を握り指を絡めた。潤んだ目で功を見ている芙美夏の瞼にキスをする。何度もキスを繰り返し、時折流れ落ちる涙を舌で拭った。
 繋いでいる芙美夏の指にも、力がこもるのがわかる。絡めた手をゆっくりと持ち上げ功が舌でなぞると、くすぐったそうな笑みが芙美夏の顔に浮かぶ。その拍子に、彼女の中の自分の指が軽く締め付けられるのを感じた。
「指、締めてる」
 功がイタズラっぽく笑うと、「やっ……」と、恥ずかしそうに芙美夏が顔を逸らし目を閉じてしまう。

 ――わかってない。
 思わず胸の内に苦笑いが浮かぶ。芙美夏は、何もわかっていない。そんな仕草の何もかもが、功の熱を高めていることを。そうしてまた、こんな姿を康人に見せていたのかと想像すると、無意識のうちについ手を握る指に力が入ってしまう。
「功さん、手……痛い」
 ハッと気が付き、手を離そうとしたその指を、芙美夏の指が追いかけてきて再び絡め取った。
「……離さないで」
 今度は力を入れすぎないように気をつけながら、功は手をもう一度握った。
 芙美夏を抱きながら、自分に全く余裕がない事に気付いて可笑しくなった。他の誰かと身体を重ねた経験は何度もあるはずなのに、こんな風に暴走しそうになる己を止めるのに必死だなんて、初めての事だ。
 自分で自覚できるほど熱の篭った目で、功は、芙美夏を見つめた。その視線に縫い留められたように、芙美夏が功を見つめ返してくる。見つめ合ったまま、彼女の中を探っていた指を引き抜き、功はその上の場所に蜜を塗りつけるように柔らかく触れた。
「ん……っ」
 突然の感覚に、抑えきれず声を上げて彼女の腰が小さく跳ねる。円を描くように敏感なそこに優しく触れ時折加減を加えながら、小さく跳ね上がる身体を押さえて腹部に舌を這わせた。
「だめ……おね、がい……怖い」
「だめじゃない……ほら」
 さっきよりも明らかに柔らかく濡れて滴るそこに、もう一度指を迎え入れさせて、浅くかき回す。水音が聞こえると、甘い声を上げて芙美夏が首を小さく振った。
 腹部から降りていった舌で、指で触れていた場所をなぞる。羞恥心からかそれを拒もうとずり上がる身体を押さえ込んで、ゆっくりと丁寧に加えられる愛撫に、次第に芙美夏は泣くようにか細い嬌声を上げて、小さく身体を震わせた。
 功の腕を掴む手に、無意識にだろう爪が立てられる。その様を見つめながら、功は、もう殆ど制御が効かなくなっていた。
「――もう、芙美夏、……いい?」
 頬に触れて、確かめるように涙で潤んだ瞳を見つめる。息を上げ、上気した表情で功を見つめた芙美夏は、目を逸らすと小さく頷いた。

 準備を素早く整えて、功は、自分を何とか抑えながら、潤った中にゆっくりと身体を沈めようとした。その時。
「……たぃっ」
 少し進んだところで、肩を掴んでいた指に力が入り、重ねた身体が強張った。驚いて視線を上げると、苦しそうに歪んだ芙美夏の顔が目に入る。
「何で……」
 功は、身体を一瞬引こうとした。
「やめないで」
 芙美夏が苦しげな息を上げながら、功の腕を掴んだ。戸惑いながら、その目を見つめ返す。
「おねがい……功さん」
 躊躇いが、懇願するような芙美夏の瞳を見つめるうちに、解けていく。功自身もまた、もうこの熱を抑えたくはなかった。
 顔を近付けると、強張りを解くように、何度も慰撫するように優しく唇を重ねる。少しずつ力が抜けていくのを確かめながら、功は少しずつキスを深くしていった。
「ん……っ……」
 唇から首筋、胸元から耳朶を吸い上げて、また唇に戻り深く舌を絡める。柔らかな胸の膨らみをなぞり、赤く硬くなった蕾を指で転がし摘む。くぐもった声を上げながらも、固くなっていた芙美夏の身体が、功の下で、また少しずつ解れ熱を持ち、潤んでいく。
 こめかみを伝い落ちていく涙を舌で拭って、耳朶に唇を寄せて「芙美夏――」と名前を呼んだ。
「ごめん……もう限界だ、入らせて」
 耳の中に乞うように言葉を送り込むと、声を堪えながら芙美夏の潤んだ瞳が功を見つめた。
 アルコールのせいなのか、腕の中にいるのが芙美夏だからなのか。多分両方だろう、何度も暴走しそうになる本能を、どうにか理性で抑え込んでいた。
 初めて男に身体を開き受け入れるのだ。本当ならばもっともっと芙美夏を解して、少しでも楽にしてあげたかった。けれど、その事実さえも今の功を昂らせる。
 膝を抱え上げると、顔を寄せて口づけを落とす。少し怯えたような、小さく揺れる瞳を見つめた。
「痛かったら、俺を、噛んで」

 今度は止める事無く、芙美夏の中に、少しずつ入っていった。強く縋り付くように肩に手を回しながら、痛みに身体を強張らせているのがわかる。
 しがみ付いた指の先で、芙美夏の爪が功の背中に傷をつける小さな痛みを感じながら。功は彼女の顔を引き寄せて、噛み締めようとしている唇を自身の肩を寄せた。
 そうして、最後まで貫くように腰を進めた。痛みに耐えかねたように、声を上げた芙美夏が功の肩を強く噛む。その痛みに、思わず漏れそうになる声を堪えた。芙美夏が感じている痛みは、こんなものではないだろう。
 肩口に感じる痛みと、狭い中が絡みつくように功を包むその心地よさに、眩暈がしそうだった。
 やがて動きを止めた功は、肩で大きく息を繰り返した。
「芙美……夏、息して。ゆっくりでいい、力を……抜いて」
 ゆっくりと噛んでいた肩から唇を離した芙美夏は、涙を流しながら、苦しそうに顔を歪めている。
「……こう……さ、ん」
 絞るように、苦しげに名前を呼ぶ芙美夏の、汗で張り付いた髪を掻き上げてやりながら、ようやく息を吐いた芙美夏の涙を唇で拭った。
 本当は、直ぐにでも動きたい気持ちを、どうにか堪える。ほんの僅かに息が落ち着いてきた芙美夏が、功の肩口を見上げて小さく瞳を見開いた。
「ごめ、なさっ」
 薄っすらと血の付いた功の肩口に、咄嗟にだろう芙美夏が舌で触れる。その途端、芙美夏の中で自分が反応するのを感じて、功は慌てた。
「だめだ、芙美夏」
「んっ……」
 苦しそうに顔を歪める涙と熱に潤んだ瞳と、血の付いた唇がやけに扇情的で、功はこれ以上自分を抑えている事が出来なくなった。
 汗が、滴り落ちる。息を一つ吐き「ごめん……我慢して」と告げて、芙美夏の身体を始めはできるだけゆっくりと、だが次第に激しく揺らし始めた。

 傷みを耐えながらも、時折声を上げる濡れた唇や、瞳から零れ落ちる涙を、功は指でなぞった。まだ痛みはあるのだろうが、次第にそれだけではない何かを感じ始めているようだった。
 芙美夏の何もかもに、功は追い詰められていた。このままでは自分が先に達してしまう。荒い息を整えると、身体を揺らしながら、最も敏感な場所に指で触れた。痙攣するように腰が跳ね、中が締まる。
「やっ……こ……うさん……ん……こう、っ」
 うわ言のように何度も名前を呼ばれる。
「芙美……夏」
 功も、名前を呼びながら、縋るように伸ばされた腕を掴んだ。

 熱と痛みにに浮かされたように、焦点の合わなくなってきているその目が、それでも功の瞳を捉えた。
「……だい、すき」
 掠れたその声が耳に届いた瞬間、芙美夏の中で功の熱が弾けた。


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