美月を学園に送り届けた後、淳也は午後の講義にむけて大学へと向かった。
午前中の講義は休んでも大して影響がないものばかりだったが、午後からの講義は出来るだけ出ておきたかった。もしも美月から何も聞き出せなかった時は、無理をするしかないと考えていたのだが、どうにか間に合いそうだ
最短のルートで車を走らせながら、淳也は、美月の話を思い返していた。
時折不自然なところがあるにしても、今朝の美月の話は嘘だと思えなかった。何より、あんな話を作り話でするとも思えない。
大学に着いて講義室に向かう道すがらも、どのタイミングでどこまでを功に報告すべきか、ずっと迷いながら考えていた。
昨日の夜――もう日付は今日になっていたが、ホテルからマンションへと戻る車内で、功に美月の様子を伝えた時、迷うことなく返された答えは、すぐに聞き出せと言うものだった。
そんな事のためにホテルにまで追いかけて来たのかとは、言われなかった。
淳也の選択はやはり功にとっても正しいものだったようだ。美月のほんの些細な変化も、功にはしばらく様子を見るという選択肢はなかった。
単純な思考だが、まず二人が考えたのは、誰か男に付き纏われてでもいるんじゃないか、もしくは学校や友だちと何かあったんじゃないか、というものだった。
もしかしたら、好きな男ができたのかもしれない――そんな想定も、淳也だけでなく、恐らく口にしないだけで功の頭の中にも浮かんでいただろう。
今朝まで考えていたことなど、所詮はその程度のことだったのだ。
講義室に入る前に、携帯の着信音が聞こえた。発信者名は予想通り功だった。
『今どこ』
「大学です」
『何かわかった?』
「ええ、まあ」
『今から会えるか』
「申し訳ありません。この後は抜けられない講義が詰まってます。それに、ちょっと気になることがあって」
『気になるって?』
「いえ、少し時間を貰えませんか。調べて明日までには必ず報告します」
『……わかった。じゃあ明日』
「功さん」
『何?』
「念のためですが、今日明日は電話に出られるようにしておいて下さい」
苦笑するような声が聞こえた。
『わかってる。取りに行くものがあって、今日は屋敷に戻るつもりだから』
「そうですか。じゃあ俺は今日は戻れないかもしれませんので、明日また連絡します」
『ああ、頼む』
淳也は通話を切ると、履歴からある名前を探してコールボタンを押した。
「ああ、康人。今夜ちょっと時間取って欲しいんだけど」