本編《雨月》 第四章 雨と雨傘1 「ただいまぁっす」 威勢のいい声が玄関から聞こえたと思うと、部屋の入口にある暖簾をかき上げて顔を覗かせた若い男の子が、珠恵を見つめて驚いたように目をパチパチさせている。「あ、あの」 椅子から立ち上がろうとした珠恵を、向かいに腰掛けていた森川... 2022.06.13 本編《雨月》
本編《雨月》 第三章 雨といちご6 「感心感心、ちゃんと消毒に来たんだな」 夕方近くに目が覚めた風太は、母家の風呂でシャワーを浴びてから吉永医院に向かった。熱はもう殆ど下がったようで身体の気怠さは抜けていたが、やはり昨日の今日では、縫合した傷はじくじくとした痛みを訴えている。... 2022.06.12 本編《雨月》
本編《雨月》 第三章 雨といちご5 喜世子が珠恵に運ばせた朝食は、もう冷めてしまっていたが、夕べ部屋に戻ってから何も口にしていない風太は、すぐに全部平らげてしまった。薬を飲んでひと息つくと、思い出したように携帯へと手を伸ばす。 アドレス帳から『福原たまえ』と登録した名前を呼び... 2022.06.12 本編《雨月》
本編《雨月》 第三章 雨といちご4 夕べはあまり様子を気にする余裕がなかったが、森川が住んでいる辺りは、今も古くからの街並みを残す下町だった。珠恵が住んでいる新興住宅地とは、同じ都内であっても随分と様子が違う。 駅へと向かう人の流れに逆らうように、喜世子に送って貰った道を、記... 2022.06.12 本編《雨月》
本編《雨月》 第三章 雨といちご3 自宅に帰り着いて、鞄から鍵を取り出したタイミングで、玄関に明かりが灯り鍵が開錠された。ドアノブを握りゆっくりと引くと、恐らくは靴音を聞きつけて出て来たのだろう母親が、玄関先で珠恵を出迎える。「ただいま、帰りました」「お帰りなさい。随分、遅か... 2022.06.12 本編《雨月》