本編《雨月》 第六章 雨とさくら4 風に煽られて、花吹雪が舞う。いつの間にか満月は薄雲の向こうに隠れ、淡くぼんやりとした光を放っていた。「今日は――」 吸い込まれそうな桜の花から目を逸らし、風太はしばらくの間目を閉じて、息と共に言葉を吐き出した。「安見さんの命日だ」 隣に腰を... 2022.06.25 本編《雨月》
本編《雨月》 第六章 雨とさくら3 「親がいるなら居場所は教えておけ。そう言われたのは一度だけで、そのままズルズルとあの人のマンションに居付くようになった俺に、安見さんはそれ以上はほとんど何も言わなかった。まあ、後んなってわかったけど、どうもお袋には俺の居場所、連絡してたらし... 2022.06.25 本編《雨月》
本編《雨月》 第六章 雨とさくら2 「学校も先生も、結局のところ俺ら親子にはあまり関わりたがらなかった。小学生のうちから何度も警察の世話んなって、中学に上がる頃にはもうすっかり札付きだ。その頃にはもう殆ど家に帰らなかったけど、だからといって警察に届けるような親でもなかったしな... 2022.06.25 本編《雨月》
本編《雨月》 第六章 雨とさくら1 花見の当日、午前中は少し曇り気味だった空は、昼を過た頃から春の日差しが照りつける穏やかな天気へと変わっていた。 一週間前からずっと曇と傘マークのその日の天気予報を毎日チェックしては、外れて欲しいと願っていた自分の気持ちが通じたかのようで、珠... 2022.06.25 本編《雨月》
本編《雨月》 第五章 雨とお守り3 合格した、と森川からメッセージが届いたのは、それから約一週間後のことだった。 試験の前までは毎日のように会っていた森川との繋がりは、その連絡があるまで、試験当日に送られてきた『何とか落ち着いてやれたと思う』という内容のメッセージだけだった。... 2022.06.20 本編《雨月》