本編《雨月》

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第七章 雨と混沌5

珠恵が横になっている間に、店とは弘栄が話をつけていた。 女を連れ込んでいた学生に場所を提供し、中で行われていることには目を瞑る見返りに金を貰っていたのだという若いオーナーは、ここで商売を続けたいなら、今後二度とその手の行為に手を貸さないと約...
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第七章 雨と混沌4

触るなと言われた男の怯えた表情に、自分が今どんな形相をしているのか、想像がつく。「……や、……な、なんも、してねえって」 慌てて肩から手を離した男を押しやると、しゃがみ込んで、目を閉じた珠恵の頬にそっと触れた。浅くだが呼吸を繰り返す珠恵の顔...
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第七章 雨と混沌3

愛華の答えを聞くと同時に、ドアから飛び出した。母家の玄関の扉を叩きつけるように開けて居間へと戻り、車のキーを手にする風太を、皆が呆然と見ている。「風太、あんたいったい」「車、使います」 キーを手に部屋を出ようとしたところで、大声で翔平を呼び...
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第七章 雨と混沌2

夜間の学校が始まり、毎日が思った以上に忙しい。あれから、珠恵とは一度も顔を合わせていない。 花見の日から二週間程経った頃、風太は一度だけ休みの日に図書館に足を運んでみた。けれどその日、珠恵の姿は見当たらず、以前彼女の名前を教えてくれた職員が...
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第七章 雨と混沌1

玄関の扉を閉めて靴を脱ぎながら、自分の中にさっきまでの余韻が残っていて、心はまだ桜の元を彷徨っているようだった。「珠恵?」 出迎えた母が珠恵の荷物を手に取ってから初めて、我に返り顔を上げた。「あ……ただいま」「お帰り、なさい」 何か言いたげ...