本編《雨月》

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第十章 雨と雷鳴2

髪や服からも雨が滴る程濡れた珠恵の身体は、すっかり冷え切ってしまっていた。 こんな状態の客をタクシーが乗せてくれるかもわからない。第一こんな雨の夜にすぐにタクシーがつかまるとも思えない。それに、こんな状態の彼女をタクシーに乗せるのも抵抗があ...
本編《雨月》

第十章 雨と雷鳴1

買い出しを済ませた風太と翔平がスーパーの外へ出ると、雨はもう止んでいた。「ほんっと、あの人ら底なしっすよ」 重い酒を抱えながら自分ではそれを飲めない翔平は、さっきからずっとブツブツと文句を言っている。「聞いてないっしょ、風太さん」 愚痴に適...
本編《雨月》

第九章 雨乞い3

ふと、名前を呼ばれた気がして、顔を上げた。 首を廻して外を見ると、いつの間にか降り出した雨が窓を濡らしている。雨がとうとう幻聴まで連れてきたのかと苦笑して、風太は、視線を教壇に立つ教師の方へと引き戻した。 ――傘、持って来てねえな…… 折り...
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第九章 雨乞い2

言葉は理解できても、問われていることの意味がわからず、咄嗟に言葉が出てこない。「どういう……それは……」 落ち着け、と自分に言い聞かせながら、珠恵は静かに息を呑み込んで、森川の写る二枚の写真から顔を上げた。「その人は……ただ、ちょっとした知...
本編《雨月》

第九章 雨乞い1

朝から休みのその日は、また夕方から夜にかけて雨が降る模様だった。洗濯や掃除などの家事を手伝ってから、読みかけていた本を開いて。けれど殆ど文字を追うこともできないまま、支度を始めなければならない時間を迎える。 門倉との約束は夜の七時。都心にあ...