本編《雨月》

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第十三章 雨と水無月1

スクーターは翔平という男に預けて、昌也は森川と共に車に乗り込み自宅へと向かった。 昌也が何も言わなくても、迷うことなく車を走らせる様子に、二人が本当に見知った間柄なのだということを実感させられる。 珠恵の様子を聞いたきり、険しい表情のまま口...
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第十二章 雨隠6

「風太さんっ」 下から聞こえた翔平の呼び声に、風太は、梁と柱を金具でとめる作業をしていた手を止めた。「どうしたっ」「あのっ……えっと」 周りの作業音にかき消されないように大声で問い返すが、翔平の返事ははっきりしない。素早く残るひとつの金具を...
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第十二章 雨隠5

『福原、昌也君ですよね。突然ごめんなさい。私、お姉さんと図書館で一緒に働いている萱口真那と言います』 昌也に電話を掛けてきた見知らぬ番号の相手は、繫がるやいなやそう名乗ると、すぐに本題――火曜日から姉と連絡がつかないこと、実は姉に好きな男が...
本編《雨月》

第十二章 雨隠4

「――はい、そうですか。それじゃあ、お大事にとお伝え下さい」 通話を終えた真那が、風太を見上げて首を横に振った。「やっぱり、風邪で寝込んでるから当分仕事も休ませるって。電話、本人に繋いでもらえそうな雰囲気じゃなかったです」「そうか」「お見舞...
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第十二章 雨隠3

駅裏にある比較的広いその喫茶店は、いつもながらにそこそこ賑わっていた。扉を開けて中を覗いた風太は、一番奥の席で入口に背を向け腰掛けている背筋の伸びたスーツ姿の人物に当たりをつけて、そちらへと足を向けた。 足音に顔を振り向けた男がこちらを一瞥...