本編《雨月》

本編《雨月》

第十三章 雨と水無月6

「まったく、お前らは揃いも揃って大馬鹿者だな」 食事をとってしばらくしてから、珠恵は喜世子と二人で吉永医院を訪ねた。 診察室で顔を合せると、開口一番、吉永から睨まれて雷を食らう。今朝からもう何度目だろうかと思いながら、珠恵は何度も頭を下げた...
本編《雨月》

第十三章 雨と水無月5

愛華に借りた比較的ラフな服に着替えた珠恵は、慣れない格好に落ち着かず気恥ずかしさを覚えながら、居間へおずおずと入っていった。珠恵に気が付いた喜世子が、蛇口を止めて手を拭きながら駆け寄ってくる。「あの、おはようご」「馬鹿っ、ほんとに、あんたっ...
本編《雨月》

第十三章 雨と水無月4

翌朝、珠恵が目を覚ました時にはもう、並んで敷かれていた布団は部屋の隅に畳まれていて、風太の姿はなかった。少しだけ身体をもたげて、頼りなく部屋を見渡すと、時計の針は八時を回った時刻を指している。 まだ気怠さの少し残る身体を布団の上で起こし、ど...
本編《雨月》

第十三章 雨と水無月3

森川が戻ってくるまでの間、目を閉じていただけのつもりが、うつらうつらと微睡んでいたようだ。ふと目を開くと、いつの間にか部屋に戻っていた森川が、すぐそばに座り込み珠恵を見ていた。「……あ、すみません、私、眠ってしまって」「いや、疲れてるんだ。...
本編《雨月》

第十三章 雨と水無月2

目を覚ますと、薄くともされた灯りの中、見知らぬ天井が目に入る。瞬きを繰り返し、ぼんやりとした頭で記憶を辿ろうとして。「――起きたか」 耳に届いたその声に、珠恵は視線を僅かに動かした。 電灯の影になり、あまり表情が見えないその人の手が伸ばされ...