本編《雨月》 第十五章 雨と飴2 一瞬のうちに頭の中が真っ白になる。「……まっ…ふ、た、さっ…んっ」 押し止めようとしてもびくともしない身体が、珠恵を逃がさないように囲い込んで。息を飲み込もうと口を開いた途端に侵入してきた舌が、まだ戸惑っている珠恵のそれを絡め取り、解すよう... 2022.07.20 本編《雨月》
本編《雨月》 第十五章 雨と飴1 昌也が帰ってからしばらくは、喜世子の言葉に甘えて、奥でもう少し休ませて貰った。夕刻になって起き出したときには、随分身体が楽になったように感じられ、珠恵は夕食の支度を始めていた喜世子に申し出て台所で手伝いをしていた。「あ、帰ってきたね」 調理... 2022.07.20 本編《雨月》
本編《雨月》 第十四章 冷雨2 いったいどれ位の間、誰も言葉を発していないのか、もうわからなくなるほどの沈黙が続いた。 夏なのに凍ったような部屋の空気に、昌也はなぜか自分が冷静になっていくのを感じていた。隣では、ようやく泣き止んだ母が、その冷気を生み出している父とそして昌... 2022.07.20 本編《雨月》
本編《雨月》 第十四章 冷雨1 昨日から姉が世話になっているその家の扉を閉めて、昌也は、そっと溜息を零した。 ここは、うちと違って温かい。ここになら姉を預けても心配ないだろう。それは、森川が昨日姉をこの家に連れて帰った時から、感じていたことだった。 姉を運び込んだ病院の、... 2022.07.20 本編《雨月》
本編《雨月》 第十三章 雨と水無月7 午後になると、荷物を持った昌也が古澤家を訪ねて来た。 昨日すでに顔を合わせていたからだろう、弟を案内する喜世子の口調は、珠恵の時もそうだったようにもうすっかり親しげだ。 居間に入ってくると、手にしていたボストンバッグと紙袋を下ろした昌也が、... 2022.07.18 本編《雨月》