本編《雨月》

本編《雨月》

第十七条 雨と鞭3

テスト期間も終わり、その日は夏休み直前の幾日かの登校日のため学校に向かっていた風太は、駅の改札を潜ったところで、ポケットに入れた携帯が震えるのを感じた。 萱口真那、と表示された着信に、怪訝に思いながら通話ボタンを押すと、いきなり耳に飛び込ん...
本編《雨月》

第十七章 雨と鞭2

見つめた視線の先で、門倉が微かな溜息を零した。「知る、と、思う、はイコールではありません。知っていたのかと聞かれれば、いいえ、ですが。思っていたかと問われれば、はい、です。疑わしいだけでは百パーセント否定することまではできません」 やはり、...
本編《雨月》

第十七章 雨と鞭1

「待たせましたか」「いえ……」 答えながら、この人にとってこの言葉は、答えを望むものでなく挨拶のようなものだったと思い出す。席から立ち上がった珠恵は、夏だというのに涼しげな、寧ろ冷たいとさえ感じさせる表情で目の前に立つ門倉の顔を見上げて、頭...
本編《雨月》

第十六章 雨とオムライス8

週の半ば、風太達の学校の試験が始まった二日目、珠恵は早番の仕事を終えると、駅前のスーパーに寄ってから帰宅した。 夕べのうちに風太達の食事を作らせて欲しいと喜世子には伝えていたが、もう一度、あとで台所を借りたいとお願いすると、ニッコリ笑って快...
本編《雨月》

第十六章 雨とオムライス7

頭の中の想像に動揺して、考えるより先に肩を強く押し返してしまっていた。その動きに、さほど抵抗することもなく風太の体から力が抜ける。「あ……の」 恥ずかしさはあっても、風太に触れられるのは、決して嫌な訳ではなかったのに。「……ああ。約束、だか...