本編《雨月》

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第十八章 雨と背中2

「……はらさん? 福原、さん?」 真那に名前を呼ばれて、珠恵は我に返った。喜世子との話を思い浮かべていたことに意識が捉われ、話を聞き洩らしてしまったようだ。「え? あ、ごめんなさい」「やっぱりちょっと、疲れてます?」「あ、ううん違うの、ごめ...
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第十八章 雨と背中1

騒動の翌日、昼休みに財布を取りにロッカールームへと向かっていた珠恵は、その途中、後ろから凄い勢いで腕を引かれた。危うく声を上げそうになるほど驚いて、振り返る。「ま、真那ちゃん?」「よかったぁ捕まえられて。もう、あんなに待っててって視線送って...
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第十七章 雨と鞭6

恐らくは超がつくであろう一流ホテル。これまでの人生に無縁だった高級な客室。品のある調度品で整えられたこの部屋は、あの日珠恵と泊まったホテルとは雲泥の差だった。世間的にみれば、差し詰めこの部屋が門倉で、あのラブホテルの部屋は風太なのだろう。 ...
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第十七章 雨と鞭5

なぜ珠恵がこんな男に頭を下げる必要がある。怒りを含んだ言葉が、喉元までせり上がる。けれど、珠恵の顔を見た風太は、それを辛うじて飲み込んだ。 珠恵の表情は、もう癖になってしまっている謝罪の言葉を口にする時の、どこか卑屈にさえ感じるいつものそれ...
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第十七章 雨と鞭4

待てという風太の声に、足を止め、しばらく間を置いてから振り向いた門倉の顔は、珠恵が何度か目にしたことのある冷たい侮蔑を滲ませたものだった。「ああ……そういうことですか」 視線を細め、口元に皮肉げな笑みを薄く浮かべた門倉が、呆れたように呟き珠...