本編《雨月》

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第十九章 雨と外郎2

「じゃあ、私は」「あ――」 席を立とうとした喜世子を見上げて、珠恵はつい縋るように見つめてしまう。「……大丈夫だから。珠ちゃん、お母さんと二人で話を」 励ますような目で珠恵を見下ろした喜世子が、同意を求めるつもりだったのだろう、母へと顔を向...
本編《雨月》

第十九章 雨と外郎1

秋も深まり、少しずつ色を変えていた木々も、もうその葉を散らし始めていた。このところ、朝晩は特に冬の気配が色濃くなってきたように感じられる。 その日、仕事が休みだった珠恵は、朝早くから起きて朝食を用意し、早くから仕事に出掛ける風太を見送った後...
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第十八章 雨と背中5

強請るように顔を寄せると、頬を染めた珠恵の唇がそっと重ねられた。緩やかに食んでから与えるように唇を開くと、そこに躊躇いながらおずおずと舌が入り込んでくる。 誘うように絡め取ると、珠恵の温かな舌が、ぎこちなくもそれに応え動き始めた。しばらくは...
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第十八章 雨と背中4

学校が休みに入り、皆と揃って夕食をとり終えた風太が風呂に入っている間に、先に部屋に戻ったらしい珠恵が客間に布団を並べ敷いていた。 風呂から上がり、当たり前のようにその部屋に戻った風太は、言葉を交わしながら、珠恵の様子に僅かな違和感を覚え始め...
本編《雨月》

第十八章 雨と背中3

梅雨が明けると、真夏らしい晴天の暑い毎日が続いていたが、天気予報はここ二日程、台風が近付いている影響で強い雨が降るとの予報を知らせていた。 風太達の通う学校が夏休みに入った初日、予報通り、珠恵が朝家を出る頃にはまだ小粒だった雨は、昼過ぎには...