本編《Feb》

本編《Feb》

第三章 十六夜1

美月が学園に向かうのを見送ってから慌てて踵を返し居間に戻った淳也は、功の姿を探した。居間に戻り、そこに居た母和美にその事を尋ねてみると、どこか戸惑った顔をこちらに向けた。「夕べ遅かったから、旦那様の書斎に向かわれたはずだけど。でも、モーニン...
本編《Feb》

第三章 満月8(孤月)

永の部屋から自分の部屋に戻ってくると、扉を閉め、中をゆっくりと見渡す。 二年前に模様替えされた部屋は、今もあの時のまま、美月にとってはキラキラと眩しく輝いて見えている。 今は綺麗に整理され、不要なものは箱に詰め、当面の生活に必要な衣類などは...
本編《Feb》

第三章 満月7(孤月)

美月がその部屋に入るのは、およそ二年ぶりの事だった。 由梨江が生きていて、まだ美月を美月だと思っていた頃は、一年に何度か一緒にここにその人を訪ねる機会があった。 由梨江の前ではその人をパパと呼んだが、自分もその人も、その事に慣れる事は無かっ...
本編《Feb》

第三章 満月6(弧月)

軋む体をゆっくりと起こし、隣で眠る人を起こしてしまわなかったかと、じっと見つめる。少し開いた功の唇からは、静かに繰り返す呼吸の音が聞こえていた。 そっと、その瞼にかかる髪に触れる。そのまま顔に触れようとした手を、直前で止めた。 ベッドを揺ら...
本編《Feb》

第三章 満月5

目覚めた時には、もう部屋の中がすっかり明るくなっていた。うつ伏せになった身体をゆっくりと起こしながら、功は、心地よさと不快さの入り混じった気だるさを感じていた。「……芙美夏?」   部屋を見渡すと、芙美夏の姿はもうそこになかった。 昨夜の事...