本編《Feb》

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第四章 立待月7(雨月)

突然の問い掛けに、戸惑いを覚えながら考えてみる。 二条の家の中で10年以上の月日を過ごした芙美夏には、それがほんの少しだけわかる気がした。 気の遠くなる程続いてきた由緒ある家柄と守られて来た伝統、大きく成長していく会社と、そこに関係する人々...
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第四章 立待月6(雨月)

行きも帰りも二条家が手配した広い座席は、自分には不釣り合いで落ち着かない。乗務員から提供される恐縮するほど手厚い接客も、帰りの機内では、愛想笑いを返すのさえ難しかった。 シートベルトを締めながら、芙美夏は指先がまだ震えているのに気が付き、手...
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第四章 立待月5

小さく擦れた呟きが聞こえた。「どうして、ここに……」「出張の帰りなんだ」 きっと俄にはそんな言葉も信じられないのだろう、噛むように唇を引き結んだ芙美夏は、そのまま視線を落としてしまった。「芙美夏」 もう一度、確かめるように名前を呼ぶ。 あの...
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第四章 立待月4

ベルト着用サインが消えるのを待って、座席から立ち上がり、降機の準備を整える。 手荷物のキャリーケースを引き、地上係員の先導で真っ先に到着ロビーに降り立った。 機内で電源を入れた途端入ってきていた着信に折り返しの連絡を入れながら、迎えの車が待...
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第四章 立待月3

由梨江が精神的に不安定になり、芙美夏の存在を遠ざけるようになってからは、永の誕生日や、父の日、クリスマスが来ても、誰も芙美夏を永の部屋に連れて行く者はいなかった。 書き続けることが習慣になっていたカードだけが、渡す機会もなく引き出しに増えて...