番外編《雨月》 雪解雨(ゆきげあめ)1 小さな足音が、時折、慌てたように駆け足になる。 ベンチに腰掛けていた喜世子は、廊下を近付いてくるその音の方へと顔を向けた。 いつもの珠恵ならば、絶対にこんな場所で足音を立てて走ることはしないだろう。当たり前だが、今は冷静ではないことがよくわ... 2023.05.14 番外編《雨月》
番外編《雨月》 四温の雨 おまけ 「帰りにちょっと寄れって連絡が来てたから、もう少しいいか」 駅前の通りに差し掛かったところで、風太が指示したのは、ターニャの店の方向だった。 花のお礼も言いたいからと珠恵が頷くのを待って、先程の静けさとは逆の、多くの光であふれた通りへと向か... 2023.05.06 番外編《雨月》
番外編《雨月》 四温の雨 2 風太に手を引かれついて行った先は、レトロな外観の小さな洋食屋だった。 『Lanthan』と書かれたその店は、ターニャの店がある区画とは駅を挟んで逆側の、喧騒から少しだけ離れた住宅地のエリアにあった。「いらっしゃいませ」 扉を開くと、白いシャ... 2023.05.06 番外編《雨月》
番外編《雨月》 四温の雨 1 「――は?」 仕事中に入っていたメッセージを開いた途端、風太は、思わず声が出てしまっていた。 隣で昼の弁当を食べている翔平が、箸を止めて視線を向けてくるのがわかる。 震えたスマホに、珠恵の弟、昌也から届いたメッセージの内容を見て、風太は小さ... 2023.05.06 番外編《雨月》