本編《Feb》 第五章 寝待月3 空港の到着ロビーへ出ると、いつものように控え目に手を振る芙美夏に頷く。 本当は人混みが見えた時から、その中にいる彼女を見つけているが、走り寄って抱き締めてしまいたい気持ちを抑えるように、功はゆっくりと歩を進めた。「久しぶり」 その言葉に、芙... 2022.10.04 本編《Feb》
本編《Feb》 第五章 寝待月2 夜勤を終えてから、芙美夏は退園前に園長室に立ち寄った。「どうぞ」 ノックをして中に入ると、机から顔を上げた園長が芙美夏を見遣る。「香川先生。どうしましたか?」「今、少しだけお時間を頂けますか?」 黙ってソファを示され、頭を下げてそこに腰かけ... 2022.10.04 本編《Feb》
本編《Feb》 第五章 寝待月1 ドイツの会社との業務提携の話が、ここへきて平行線を辿っている。双方の提示した契約の最重要条件が噛み合わずどちらもが引かないため、なかなか折り合いがつかない状態だった。 かなり大きなその取引の中心となっているのは、功を筆頭とした若手の社員で、... 2022.10.04 本編《Feb》
番外編《雨月》 雨花(うくわ)2 花見の当日、午前中は夕べの雨を引き摺るように花曇りだった天気も、午後からは雲の合間に青空がのぞき、気温も少しずつ上がり始めているようだった。 昼前に場所取りに出向いた翔平から入ったそんな報告も、けれど殆どずっと台所に詰めている喜世子と珠恵に... 2022.10.03 番外編《雨月》
番外編《雨月》 雨花(うくわ)1 また、桜が咲く季節が巡ってくる。 春が来るのに合わせたように丸みを帯び始めていた桜の蕾を見上げながら、花見の頃まで、この寒さが続くのではないだろうかと思っていたのは、つい先週のことだというのに。 季節を思い出したかのように急に暖かくなった気... 2022.10.03 番外編《雨月》