2022-10

本編《Feb》

第五章 下弦の月6

「淳也」 落ち着いた声色の功の呼びかけに、淳也はその顔を上げた。「俺は、芙美夏に約束したんだ。もう、絶対に独りにはしないって。俺も、約束させた。もう一人で消えたりするなって」 虚空を見つめ、静かに語る功の横顔を、淳也は瞬きもせずに見つめてい...
本編《Feb》

第五章 下弦の月5

機械の音がやけに大きく耳に響いて聞こえる部屋の中で、功は、それに合わせるように微かに上下する芙美夏の胸を見つめていた。 指先に機器をはめていない手の傷のない指に、そっと触れる。冷たいこの指が功の身体にしがみつき、しなやかな芙美夏の身体を何度...
本編《Feb》

第五章 下弦の月4

時折、遠くからサイレンが近付く音がして、慌ただしい足音と声が聞こえてくる。 淳也が駆けつけた時、まだ手術室に入っていた芙美夏は、長時間に渡る施術を終えた今も、まだ予断を許さない状態が続いている。 骨折は全身数ヶ所に及び、内蔵にも損傷を受けて...
本編《Feb》

第五章 下弦の月3

契約の調印、共同記者会見を滞りなく済ませた後、個別に入っていた所謂ビジネス誌や経済誌と呼ばれる雑誌の取材に対応し、それを終えると、すぐに用意された車でパーティ会場のホテルに移動する。 来日していた契約先の担当者や役員だけでなく、今後業務に携...
本編《Feb》

第五章 下弦の月2

午後からの調印式や記者会見に向けて、その日は朝から慌ただしかった。正午前には、提携先のシュナイゼルノイン社の担当者と副社長が、ドイツからここ二条ホールディングスの本社に到着することになっている。 その後打ち合せとランチを経て、正式に契約を結...