本編《Feb》 第四章 立待月5 小さく擦れた呟きが聞こえた。「どうして、ここに……」「出張の帰りなんだ」 きっと俄にはそんな言葉も信じられないのだろう、噛むように唇を引き結んだ芙美夏は、そのまま視線を落としてしまった。「芙美夏」 もう一度、確かめるように名前を呼ぶ。 あの... 2022.09.12 本編《Feb》
本編《Feb》 第四章 立待月4 ベルト着用サインが消えるのを待って、座席から立ち上がり、降機の準備を整える。 手荷物のキャリーケースを引き、地上係員の先導で真っ先に到着ロビーに降り立った。 機内で電源を入れた途端入ってきていた着信に折り返しの連絡を入れながら、迎えの車が待... 2022.09.05 本編《Feb》
本編《Feb》 第四章 立待月3 由梨江が精神的に不安定になり、芙美夏の存在を遠ざけるようになってからは、永の誕生日や、父の日、クリスマスが来ても、誰も芙美夏を永の部屋に連れて行く者はいなかった。 書き続けることが習慣になっていたカードだけが、渡す機会もなく引き出しに増えて... 2022.09.05 本編《Feb》
本編《Feb》 第四章 立待月2 屈み込んだ香川が、足元にこぼれ出た商品を拾い上げてエコバックに入れる間、ただ呆然とその場に立ち尽くしていた。 差し出されたそれを、手を伸ばして受け取ったが、何も言葉が出てこない。一度俯けてしまった顔を上げることすら出来なかった。「元気そうだ... 2022.09.05 本編《Feb》
本編《Feb》 第四章 立待月1 《第四章》 芙美夏(美月) 23才 二条 功 27才 香川淳也 26才 …………「先生ただいま」 子ども達の声が次々と聞こえる。「お帰り、お帰りなさい」 それに何度も答えながら、学校から帰ってきた子ども達を出迎える。園の中が、急... 2022.09.03 本編《Feb》