2022-08

本編《雨月》

第十九章 雨と外郎7

椅子に座りじっとしていなければならない時間を苦痛に感じながら、全く集中出来ない授業を終えた風太が家に帰ると、たいていは出迎える珠恵の代わりに、今日は喜世子が居間から顔を覗かせた。 そのことが、また少し気持ちをざわつかせる。「お帰り、早かった...
本編《雨月》

第十九章 雨と外郎6

「随分遅かったね。あれ? 風太あんた、珠ちゃんと一緒じゃなかったの」 居間に戻ると、おかずを盛った皿を手に台所から出てきた喜世子が、風太の後ろに視線を向ける。「用事思い出したみたいで部屋に戻ってます。支度、手伝えなくてすいませんって」 答え...
本編《雨月》

第十九章 雨と外郎5

車は、ほんの五分程度で家へと到着し、風太は先に帰りついていたバンの横に軽トラックを停めた。親方や竜彦の乗ったバンも、軽トラより先に珠恵にクラクションを鳴らし通り過ぎたらしいが、全く気が付かなかった。 エンジンが止まると、不意に車内に静寂が訪...