2022-07

本編《雨月》

第十三章 雨と水無月2

目を覚ますと、薄くともされた灯りの中、見知らぬ天井が目に入る。瞬きを繰り返し、ぼんやりとした頭で記憶を辿ろうとして。「――起きたか」 耳に届いたその声に、珠恵は視線を僅かに動かした。 電灯の影になり、あまり表情が見えないその人の手が伸ばされ...
本編《雨月》

第十三章 雨と水無月1

スクーターは翔平という男に預けて、昌也は森川と共に車に乗り込み自宅へと向かった。 昌也が何も言わなくても、迷うことなく車を走らせる様子に、二人が本当に見知った間柄なのだということを実感させられる。 珠恵の様子を聞いたきり、険しい表情のまま口...
本編《Feb》

第二章 十三夜4

そう遠くない自宅まで藍を送り届けた淳也は、すぐに功のマンションへと引き返した。 駐車場に車を止めて暫くの間待っていると、下って来たエレベータが開き中から美月が出てくる。 車の外に出て、こちらへと向かい歩いてくる美月を見つめていた視線を、淳也...
本編《Feb》

第二章 十三夜3

事態を飲み込めず茫然としたまま、功の顔から、美月はもう一度写真へと視線を落とした。震える指先で、写真に写るその人の顔の辺りにそっと触れる。人に言われなくても自分でもわかるくらい、その人と美月はよく似ていた。「どう、して……」「あの日、美月が...
本編《雨月》

第十二章 雨隠6

「風太さんっ」 下から聞こえた翔平の呼び声に、風太は、梁と柱を金具でとめる作業をしていた手を止めた。「どうしたっ」「あのっ……えっと」 周りの作業音にかき消されないように大声で問い返すが、翔平の返事ははっきりしない。素早く残るひとつの金具を...