2022-07

本編《雨月》

第十六章 雨とオムライス3

実は今、家を出て風太の元に身を寄せているのだ―― そう告げると、真那は、あんぐり、というのはこういう状態なのだと絵に描いたかのように口を開いたまま、珠恵を見つめた。「ま、真那ちゃん、大丈夫?」 一度口を閉じた真那は、長く綺麗にカールしたまつ...
本編《雨月》

第十六章 雨とオムライス2

たった数日離れていただけのはずなのに、とても久しぶりに感じる本の匂いに、胸が一杯になる。 カウンターへ入り電源を落としている電子機器類のスイッチを入れてから、珠恵は時間外に返却された図書が溜まっているブックポストへと足を向けた。いつもより多...
本編《雨月》

第十六章 雨とオムライス1

この家で過ごすようになって4日目。およそ一週間ぶりに出勤する日曜の朝、珠恵は目覚まし時計よりも早くパッチリと目が覚めた。 ――どうせ一緒に寝んのに、何でわざわざ二枚敷くんだ。 揶揄っているのかそうでないのもかわからない風太の問い答えられない...
本編《Feb》

第三章 小望月4

結納の日取りが正式に三月と決まった。そしてその日は、芙美夏の卒業式と重なっていた。 結納の日の前夜は必ず屋敷に戻って食事を取り、翌日訪ねて来る仲人を迎えられるよう準備をしておくように――との父からの伝言が、香川を通して功に伝えられていた。 ...
本編《Feb》

第三章 小望月3

その日を最後に、功は、年末年始にさえも屋敷には戻らなかった。 マンションと会社を往復し、香川の下について、二条での仕事を把握していくための毎日を送っていた。 大学は論文を提出さえすれば、後はその評価を待つだけだ。淳也はあと一年残っているため...