2022-07

本編《雨月》

第十六章 雨とオムライス8

週の半ば、風太達の学校の試験が始まった二日目、珠恵は早番の仕事を終えると、駅前のスーパーに寄ってから帰宅した。 夕べのうちに風太達の食事を作らせて欲しいと喜世子には伝えていたが、もう一度、あとで台所を借りたいとお願いすると、ニッコリ笑って快...
本編《雨月》

第十六章 雨とオムライス7

頭の中の想像に動揺して、考えるより先に肩を強く押し返してしまっていた。その動きに、さほど抵抗することもなく風太の体から力が抜ける。「あ……の」 恥ずかしさはあっても、風太に触れられるのは、決して嫌な訳ではなかったのに。「……ああ。約束、だか...
本編《雨月》

第十六章 雨とオムライス6

結果的に、風太と一緒だったおかげで、帰宅後も過度に緊張を覚えずに済んだように思う。それは、必要以上に珠恵を客扱いせず、遠慮なく使ってくれる喜世子の気遣いや、従来から感じていたこの家の馴染みやすさのおかげもあるのだろう。 昨日までと同じように...
本編《雨月》

第十六章 雨とオムライス5

「ん?」 運転席に乗り込んだ風太は、珠恵の問いにもならないような声に応えるように、助手席へと身体を向けた。「ああ」 後部座席へと伸ばされた手が、珠恵の視界に映るものを掴み上げる。「それ……」 目の前に差し出されたものを、どこか現実じゃないみ...
本編《雨月》

第十六章 雨とオムライス4

昨日までの空白が嘘のように、仕事に入ってしまえばすぐに当たり前に働く感覚が戻ってくる。いつの間にかそれくらいには、自分もこの仕事に馴染んでいたのだと改めて感じながら、珠恵は慌ただしく業務に追われ、気が付けば終業時間を迎えていた。 心地よさと...