本編《雨月》 第九章 雨乞い3 ふと、名前を呼ばれた気がして、顔を上げた。 首を廻して外を見ると、いつの間にか降り出した雨が窓を濡らしている。雨がとうとう幻聴まで連れてきたのかと苦笑して、風太は、視線を教壇に立つ教師の方へと引き戻した。 ――傘、持って来てねえな…… 折り... 2022.07.07 本編《雨月》
本編《雨月》 第九章 雨乞い2 言葉は理解できても、問われていることの意味がわからず、咄嗟に言葉が出てこない。「どういう……それは……」 落ち着け、と自分に言い聞かせながら、珠恵は静かに息を呑み込んで、森川の写る二枚の写真から顔を上げた。「その人は……ただ、ちょっとした知... 2022.07.07 本編《雨月》
本編《雨月》 第九章 雨乞い1 朝から休みのその日は、また夕方から夜にかけて雨が降る模様だった。洗濯や掃除などの家事を手伝ってから、読みかけていた本を開いて。けれど殆ど文字を追うこともできないまま、支度を始めなければならない時間を迎える。 門倉との約束は夜の七時。都心にあ... 2022.07.07 本編《雨月》
本編《雨月》 第八章 雨間(あまあい)2 食事を終えた後、これからまた仕事に戻ると言った門倉とは銀座の駅で別れた。次に会うのは、図書館の休館日に当たる月曜日を指定された。「私は職務がありますので、今日と同じような時間になります。ご両親にも、少しだけ遅くなると言っておいて下さい。それ... 2022.07.07 本編《雨月》
本編《雨月》 第八章 雨間(あまあい)1 待ち合わせは、銀座にある老舗デパートの時計台下。 比較的邪魔になりにくい場所を見つけてそこに立ち、珠恵は色とりどりの傘を差した人々が行き交い、また立ち止まるのをボンヤリと見つめていた。 雨に呼ばれ浮かぶ面影に、胸が苦しくなり目を閉じる。羽織... 2022.07.07 本編《雨月》