2022-07

本編《雨月》

第十章 雨と雷鳴5

身体の芯がゾクリと震え、心臓を鷲掴みにされた気がした。 腕に触れている華奢な手を乱暴に掴むと、押し倒した身体の顔の横に縫い付けるように押さえ込む。見開かれた瞳を見つめる自分の目は、きっとさっきまでは抑えていた欲望を曝け出してしまっているだろ...
本編《雨月》

第十章 雨と雷鳴4

少しでも暗い方が落ち着くだろうと、明かりを少し落とそうとベッドサイドのスイッチを押すと、薄暗くなった部屋の中を光の粒が回り始める。どうやらミラーボールのスイッチを入れてしまったようで、慌ててそれを止めて苦笑いしながら、呟きが風太の口から洩れ...
本編《雨月》

第十章 雨と雷鳴3

電話で珠恵に連絡を取り、風呂から出ているのを確かめてからホテルへと戻った。 念のためドアをノックしてから部屋に入ると、風太が出て行った時より血色が戻った顔をした珠恵が、バスローブを身につけやはり所在無げに立っていた。 普段からメイクは薄かっ...
本編《雨月》

第十章 雨と雷鳴2

髪や服からも雨が滴る程濡れた珠恵の身体は、すっかり冷え切ってしまっていた。 こんな状態の客をタクシーが乗せてくれるかもわからない。第一こんな雨の夜にすぐにタクシーがつかまるとも思えない。それに、こんな状態の彼女をタクシーに乗せるのも抵抗があ...
本編《雨月》

第十章 雨と雷鳴1

買い出しを済ませた風太と翔平がスーパーの外へ出ると、雨はもう止んでいた。「ほんっと、あの人ら底なしっすよ」 重い酒を抱えながら自分ではそれを飲めない翔平は、さっきからずっとブツブツと文句を言っている。「聞いてないっしょ、風太さん」 愚痴に適...