本編《雨月》 第十二章 雨隠5 『福原、昌也君ですよね。突然ごめんなさい。私、お姉さんと図書館で一緒に働いている萱口真那と言います』 昌也に電話を掛けてきた見知らぬ番号の相手は、繫がるやいなやそう名乗ると、すぐに本題――火曜日から姉と連絡がつかないこと、実は姉に好きな男が... 2022.07.18 本編《雨月》
本編《雨月》 第十二章 雨隠4 「――はい、そうですか。それじゃあ、お大事にとお伝え下さい」 通話を終えた真那が、風太を見上げて首を横に振った。「やっぱり、風邪で寝込んでるから当分仕事も休ませるって。電話、本人に繋いでもらえそうな雰囲気じゃなかったです」「そうか」「お見舞... 2022.07.18 本編《雨月》
本編《雨月》 第十二章 雨隠3 駅裏にある比較的広いその喫茶店は、いつもながらにそこそこ賑わっていた。扉を開けて中を覗いた風太は、一番奥の席で入口に背を向け腰掛けている背筋の伸びたスーツ姿の人物に当たりをつけて、そちらへと足を向けた。 足音に顔を振り向けた男がこちらを一瞥... 2022.07.18 本編《雨月》
本編《雨月》 第十二章 雨隠2 朝から何度も電話を確かめているが、もう夜になるこの時間になっても、珠恵からは何の連絡も入っていない。風太から掛けてみた電話は、初めの数回はコール音から留守番電話へ、そして夕方頃からは、電源が切れてしまっているとのアナウンスに切り変わっていた... 2022.07.18 本編《雨月》
本編《雨月》 第十二章 雨隠1 静かに門を押して玄関の扉の前に立ち、鍵を差し込む前に珠恵は目を閉じた。さっきまで森川と重ねていた唇に、そっと触れてみると、自分の身体が自分のものでないような不思議な感覚にとらわれる。 二人で過ごした短くとも濃密な時間の中で、何度も何度も重ね... 2022.07.18 本編《雨月》