2022-06

本編《雨月》

第一章 雨と図書館4

翌日から、珠恵は職場で身につけるエプロンのポケットに、ずっとあるメモを忍ばせていた。 初日は、それを手渡す状況を考えては緊張し、雨の日でもないのに、誰かが入口に現われるたびにそちらを意識してしまい、一向に落ち着かなかった。 ――あの人だから...
本編《雨月》

第一章 雨と図書館3

年も明け、季節はもう一月も半ばに差し掛かっていた。 今年の冬は比較的温暖だと言われているが、秋めいた好天の翌日に激しい雷雨が、そして急激な寒波とともに積もるほどの雪が降るなど、気候の変動が激しい。 今日は、いつもより気温は少し高く、朝からず...
本編《雨月》

第一章 雨と図書館2

時折見掛けるようになったその人とは、顔を合わせれば会釈する程度には顔見知りになった。やがてその人が図書館を利用する日に、ある法則を見つけたのは後輩の真那だった。「ね、気付いてました? 森川さんって、だいたい雨の日にここ利用してるって」 その...
本編《雨月》

第一章 雨と図書館1

明け方から激しく降り続いた雨は、正午を回った頃に、ようやく少し雨脚を弱めていた。 今年は、冬が間近の最近まで頻繁に秋台風が発生するなど、天気が安定せず大気が不安定だという言葉を、しばしば天気予報で耳にする。 カウンターで提示された貸出禁止図...