本編《雨月》 第七章 雨と混沌3 愛華の答えを聞くと同時に、ドアから飛び出した。母家の玄関の扉を叩きつけるように開けて居間へと戻り、車のキーを手にする風太を、皆が呆然と見ている。「風太、あんたいったい」「車、使います」 キーを手に部屋を出ようとしたところで、大声で翔平を呼び... 2022.06.29 本編《雨月》
本編《雨月》 第七章 雨と混沌2 夜間の学校が始まり、毎日が思った以上に忙しい。あれから、珠恵とは一度も顔を合わせていない。 花見の日から二週間程経った頃、風太は一度だけ休みの日に図書館に足を運んでみた。けれどその日、珠恵の姿は見当たらず、以前彼女の名前を教えてくれた職員が... 2022.06.29 本編《雨月》
本編《雨月》 第七章 雨と混沌1 玄関の扉を閉めて靴を脱ぎながら、自分の中にさっきまでの余韻が残っていて、心はまだ桜の元を彷徨っているようだった。「珠恵?」 出迎えた母が珠恵の荷物を手に取ってから初めて、我に返り顔を上げた。「あ……ただいま」「お帰り、なさい」 何か言いたげ... 2022.06.29 本編《雨月》
本編《雨月》 第六章 雨とさくら4 風に煽られて、花吹雪が舞う。いつの間にか満月は薄雲の向こうに隠れ、淡くぼんやりとした光を放っていた。「今日は――」 吸い込まれそうな桜の花から目を逸らし、風太はしばらくの間目を閉じて、息と共に言葉を吐き出した。「安見さんの命日だ」 隣に腰を... 2022.06.25 本編《雨月》
本編《雨月》 第六章 雨とさくら3 「親がいるなら居場所は教えておけ。そう言われたのは一度だけで、そのままズルズルとあの人のマンションに居付くようになった俺に、安見さんはそれ以上はほとんど何も言わなかった。まあ、後んなってわかったけど、どうもお袋には俺の居場所、連絡してたらし... 2022.06.25 本編《雨月》