本編《Feb》 第二章 三日月10 誰かに名前を呼ばれた気がした。 ――芙美夏 と。 目が覚めると部屋の中には、昨夜美月を診察した女性の医師がおり、ベッドサイドで脈を取っていた。「私のことがわかりますか?」 目を開いた事に気が付いた医師が、優しく微笑みながら問うてくる。「はい... 2022.05.16 本編《Feb》
本編《Feb》 第二章 三日月9 その日、田邊と訪れた先で何を知ったのか。 自分が聞かされた話を、美月は壮絶な痛みに堪えるように何度も息を吐きながら、それでも努めて冷静であろうとするかのように、静かに話し終えた。 ただ、言わないと約束したからと、母親の話を誰から聞いたのか、... 2022.05.16 本編《Feb》
本編《Feb》 第二章 無月5 目の前にある瞳に膜がかかったように見えたその瞬間―― 美月の頭に衝撃が走った。 頬を叩かれ、頭をシートにぶつけたのだとようやく理解した時にはもう、足を引きずられ、仰向けにシートに倒されていた。 凍るように冷たい目が、真上から美月を見下ろして... 2022.05.16 本編《Feb》
本編《Feb》 第二章 無月4 戻ってきた正巳と運転手が車に乗り込んできたが、美月は窓の外に目を向けたまま、身動きひとつしなかった。 呆れたようなため息に続けて正巳が「出して」と声を掛けると、車がゆっくりと走り出す。「あったかい飲み物、置いとくから」 そう言って正巳はカッ... 2022.05.16 本編《Feb》
本編《Feb》 第二章 無月3 女が帰った後の園長室は、暫く重苦しい空気に包まれていた。 母親が見つかったかも知れないという喜びはなく、厄介な事になったという嫌悪感だけが残る。絵美はもやもやとした気持ちや怒りを拭いきれないまま、二人に向けて口を開いた。「あの人何度も警察に... 2022.05.16 本編《Feb》