2022-04

本編《Feb》

第一章 新月6

葬儀の会場で遺族席に座りながら、功は、ほぼ末席に近い席に腰を下ろした俯き加減の美月を、時折そっと見遣っていた。 昨夜、通夜の席にはじめて美月が顔を見せたのは、もう今日に日付が変わった深夜二時にはなろうという時間だった。 一般の弔問客が引けた...
本編《Feb》

第一章 新月5

時が止まったみたいに、頭が真っ白になる。美月は無意識のうちに、震える手で淳也の腕にしがみついていた。 携帯電話の着信音が響き、それに呼び覚まされるように我に返る。「――うん、ああ……わかった。うん、今から。うん」 誰かと話す淳也の声を聞きな...
本編《Feb》

第一章 新月4

病室の扉を押し開けると、奥にガラスで仕切られた部屋がある。透明なそれ越しに、大きな木目の美しいベッドに横たわる、生気が感じられない痩せ細った青白い横顔を見つめた。 そこに母の命を繋ぐための数々の装置や伸びている数本の管がなければ、ここが病院...
本編《Feb》

第一章 新月3

病院の入口前に車が止まると、中から出てきたスタッフによって、特別室専用のエレベータへと案内される。一人そこに乗り込み自動的に最上階へと昇ると、今度はフロア専属のスタッフが、絨毯の敷かれた廊下で待ち構えていた。 病院というより、まるでホテルの...
本編《Feb》

第一章 新月2

雨が降るかもしれない。 美月は、窓の外をみながら眉を曇らせた。 雨が降ると、昼休みを過ごすための空き教室を探さなければならない。せめて昼休みの終わりまでは何とかもって欲しい。そう思いながら、ランチボックスと念のために折畳傘を巾着につめて、席...